目覚めたときに…

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 次に目を覚ましたとき、やはり映ったのは金と緑。そうして眩し
い銀色。
「………」
 彼の名を呼ぼうとしたが、咽が擦れて上手く動かず、微かな吐息
が漏れるだけ。アリオスは僅かに目を細めて、小さなキスをくれた。
「待ってろ」
 ゆっくりと抱き起こされて、再び落ちてきた唇から流れ込む水が
咽を潤す。
 何度か繰り返すうち、徐々に意識がもどってくる。
「!!」
 なんと、未だアリオスと繋がったままの自分に気がついた。
「ん? どうした?」
 悪戯っぽく覗き込むアリオスに、真っ赤になりながら目だけで抗
議するけれど。
「ほら、次は酒だぜ」
 グラスを変えて、ワインを含むアリオスの咽が目の前にある。す
ぐにつけられた唇から受け取り飲み込むと、ぽっと全身に周り細胞
のひとつひとつが潤されて、目覚めていく。
「ねぇ…どうしてお酒?」
「あ? 気付けだ」
「気付けって…?」

「ククッ…お前って……」
 首を傾げた顔の、あまりのきょとんとした表情に、アリオスは
思わず咽を鳴らす。
「きゃっ! ア、アリオスっ!!」
 アリオスの笑いの振動が直に伝わり、真っ赤になったアンジェ
リークが体を固くする。
「お前、この状態でそれはねぇだろ?」
「だ、だ、だ、だって…その…もう…」
 確かにこの状態で、今更アリオスの求めを確かめるのも間抜けな
ことで。だけど、つい先ほど、熱の嵐に焦がれたばかりで。
 アリオスは、真っ赤になって狼狽え、慌てて身をよじる華奢な体
を逃さず、回した腕でさらに引き寄せる。
「あんっ…」
 甘さの混じった声があがる。酒のせいか、羞恥のせいか、それと
も他の理由なのか、ほんのり桜に色づき始めた肌に手を滑らせなが
ら、アンジェリークの火照った顔を覗き込む。

「火がついた。きっちりつきあえ」
「つ、つきあえって…」
「二回や三回では済まないから、まぁ、よろしくな」
「よ、よろしくって……ええ!? い、今から!?」
「そう。ま、場所ぐらいは変えてやるぜ」
 そのままアリオスはアンジェリークを抱き上げ、大股で階段へと
歩を進める。
「わっ、ちょっと待って、アリオス!!」
 いきなり高くなる視界と、アリオスの歩く振動に周章てて彼の首
にしがみつく。
「ん? なんだ、ここがいいのか?」
 丁度階段を数歩登ったところで、足を止め
「そういや随分燃えてたな。いいぜ、別に今すぐここでも」
「いやーん、もうっ、アリオスのえっち!」
「なんだ、分かってんじゃねぇか」
 ククッと上機嫌に笑って、鮮やかな瞳で覗き込まれてしまうと、
アンジェリークも抗う言葉を失ってしまう。
「もう…明日があるのに…」
「そんなの、休め」
「………」
「あ、悪ぃ。俺がとやかく言うことじゃなかったな」
 アンジェリークの小さな沈黙に、すぐにアリオスは言い直してく
れたが、
「ま、どうしてもって言うなら行けよ。俺は手加減しねぇけど」
「うん、ありがと…って、ええっ!?」
 頷きかけて、またぎょっとして目を見張るアンジェリークを、そ
れは楽しそうに覗き込んで。
「ま、足腰ぐらいは立たなくなるけど、それでも行くなら、頑張れよ」
「〜〜〜〜〜〜〜」
 こうなってしまえば、もうどうしようもない。それでも最後の抵
抗で
「…それなら、今までアリオス手加減してたの?」
 抵抗しているつもりで墓穴掘るあたり、まさにアンジェリーク。
思わずアリオスは吹きだしてしまう。
「きゃっ!」
「ハハハッ! お前ってホント、笑えるな」
「う〜う〜う〜、アリオスぅ…」
「それはお前の体に答えてやるから、まあ、楽しみにしてろ?」
「…………」
 口を開けば開くほど、追いつめられているような気がして、アン
ジェリークは黙って小さく睨む。
 だけど、こんな風なアリオスは嬉しくて、
「…もう…アリオスったら……」 
 と、赦してしまう。
 
 アリオスはついっとアンジェリークを抱え直すと、
「な、アンジェ」
 と顔を覗き込んだ。
「なあに、アリオス」
「昔の夢を見たって構わない」
 アリオスの瞳は真摯な輝き。拘りも焦りもなく、ただ見つめてく
れる美しい瞳。
「うなされちまうことだってあるだろう。お前を辛い目にあわせち
まったのは本当のことだ。お前の夢の中まで俺がどうこうは出来
ねぇけど…」
「ア、アリオス、それは…」
 言いかけるアンジェリークの唇が、ついっと指を軽く押さえられ
た。


「お前が目覚めたら俺はいる」

 


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