目覚めたときに…
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「ああっ…!」 自分の体の下で、声を漏らしつつ身悶えはじめた甘い体。殊更 ゆっくりと、意識させるように動かすと、ねだるように締めつけて くる。 目を閉じ、眉をよせ、わずかに開けた紅い唇。 それらをアリオスはじっと見つめていた。 ――馬鹿だな、アンジェ。俺が気にするとでも思ってたか? 気にするくらいなら、抱かなかった。 それはかつてあったこと。それら全てを受け入れ断ちきり、そう して今ここにいる。 ――まぁ…お前はそういうやつだから…。 だからと言って、負い目を感じられるのも嫌だ。 ――だから、教えてやるよ。今の俺たちを。 「ア、アリオス!」 「ここにいる」 頬を撫で、汗に濡れた髪をかきわけてやる。 「ほら、目を開けろよ。俺を見ろよ」 ゆっくり開けられた青緑の瞳。にじんだ涙を口で吸う。 「お前を抱いてる。お前の中にいるぜ」 手を取って、その場所に導いてやる。 「あっ!!」 羞恥に真っ赤になって、ぱっと離そうとする手を引き寄せる。 「ほら、ちゃんと確かめろよ」 「や…やだ…アリオス。恥ずかしい…」 「恥ずかしいこと、してんだろ?」 いやいや、と首を振るアンジェリークの、潤んだ瞳と染まった 頬。組み敷いた柔らかな体の温かさを改めて感じた途端、アリオス に火がついた。 スッと結合を解き、その体を抱き上げる。 「えっ? アリオス…?」 きょとんと、訝しげに大きく開かれる青緑の瞳。 だが、ソファに向ったことで、緊張が解けた。 ――クッ…甘いぜ。 そのままソファを通りすぎ、壁際へと足を進める。 「え? え? え?」 再び戸惑い声を上げたアンジェリークを腕の中でクルリと反転さ せる。 「ほら、見ろよ、アンジェ」 壁にかけた、大きな姿見を目で示した。 「きゃっ! や、やだっ!」 目の端に写った姿に、ぱっと体ごと目を逸らして、固く目を閉じ る。身を捩ってもアリオスの体に包み込まれてしまっている。やわ やわと肌を撫でられ、力が抜けていく。 「アリオスっ! やめて…恥ずかしい…」 「だから、恥ずかしいことしてるんだって」 回された腕は優しく、響く声も楽しげで。だからこそ、アンジェ リークの体は強く反応してしまう。伸ばされた指を難なく受け入 れ、奏でた湿った音に全身を染めげる。 「濡れてるぜ? こんなに音を立ててる」 「やっ…い、言わないで…」 「なんでだよ。お前が俺に応えた証拠だろ?」 「! あっう…あ、あ、あ…」 「可愛いぜ、アンジェ。いい顔が映ってる」 目を閉じても耳まで塞げず、少し低い艶やかな声で、淫らな言葉 に犯される。 「見てみろよ、アンジェ」 それでもまぶたを閉じて、首を振る。そっと、アリオスの唇をま ぶたに感じて。 「そっか。悪ぃ。これじゃよく見えねぇよな」 閉じたまぶたの向こうが白く灯った。 「! やぁ…!!」 灯された明かりを抗議する言葉が、アリオスの唇に飲み込まれ た。捕らわれ搦められた舌を自由に弄ばれる。全身の力と思考が吸 い取られる。 ようやくアリオスが唇を離した時には、アンジェリークは紡がれ た銀の糸をぼやけた視界に映していた。 「ほら、今の俺たちだぜ?」 頬擦りするように鏡を向かされ、アンジェリークはようやく目を 鏡に向けた。 支えるように回された逞しい腕に、形を変えられ盛り上がった乳 房。首筋と言わず鎖骨と言わず、薄紅の痕が散らばって。 綺麗な稜線を露にして、自分を包み込んでまだ余る広い肩。頬を 添わした、くせのない銀の髪から覗く二色の瞳が、鏡の向こうから 見つめていた。 アンジェリークが鏡を見たことに、満足げな微笑みを浮かべるア リオスに、その笑みに見とれる。 「ちゃんと見てろよ」 耳元に落ちる声は、ひどく優しい。 柔草に潜り込んだ、綺麗な大きな手が動き、そこを露にさせた。 「…あ…!」 吐息のように声を漏らせはしたが、視線が外せない。 膝を割られる。 そこに、逞しい彼自身がゆっくりと潜り込む様を、アンジェ リークは見た。 徐々に埋め込まれると同時に、充たされていく体を感じなが ら――。 「どうだ? アンジェ。俺たちはどうなっている?」 視覚も聴覚も触覚も、アリオスだけを感じてる。 「…繋がってる…。私たち…ひとつに…繋がってる…」 鏡の中のアリオスが、それは優しく目を和ませた。 「よく言えたな、アンジェ。嬉しいぜ」 「…アンジェ」 微かに上ずったアリオスの声。 彼の肩に回した指が、その逞しい筋肉に浮んだ汗に濡れる。 感じるのはアリオス。 髪の先から指の先まで。 もはや目は閉じていたけど、白い輝光の脳裏にはっきりと浮ぶ映 された光景。 「アリオス!」 自分の中で、激しく拍動した彼が、熱い飛沫を発するのを体ごと感 じ、アンジェリークは白い光に意識を溶かした――。 |
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背景素材:Salon de Ruby 様 |