男と揃ってアクセサリーを並べる台車へ行くと、売り子の青年が
アンジェリークとその隣の男を見比べる。
「あれ……」
「?」
アンジェリークにはその呟きの意味は分からなかったが、男は
はっとして
「誤解されないで下さい。彼女は親切にも指輪選びを手伝って下さる
と申し出て下さった方です」
と言った。
「あ…なるほど。いや、別に、そんなことだろうとは思ったけど」
売り子の青年が苦笑いしながら
「ほら、それじゃ、お嬢さん」
と指輪を示した。
「これが一番ぴったりかしら?」
「う〜ん、お嬢さんの指、細いね」
そんなやりとりを男はじっと見ていて。
「それじゃ、このサイズで作って貰えますか?」
「サイズが分かればもちろんだけど、どういうデザインにするかい?
石とか、素材とか」
「え!? 石? 素材?」
驚き戸惑い声をあげた男に、アンジェリークが助け船を出す。
「ほら、金にするか銀にするかで、随分印象が違うでしょう?」
アンジェリークは金と銀の指輪を両方の手に嵌めて見せる。
「ええ。本当に」
「同じ金の指輪でも、デザインで全然違いますし」
そうして今度は同じ金の指輪でも、一つはシンプルな、もう一つは
細かな細工を施された指輪を嵌めて見せる。
「本当だ…」
「こんな風に石をはめ込んだのを贈られるなら、それも決めなきゃ
いけませんし、ね」
「…なるほど……」
頷きながら、男は心底困った顔をした。
「大丈夫ですよ。彼女に似合うのを選ばれたらいいんですよ」
「う〜ん……彼女はなんでも似合う人ですけど」
「…………」
真面目な顔をして、真面目に言ったセリフにアンジェリークは
吹き出しそうになるのを必死で抑えた。
「でも、ほら、髪の色とか瞳の色に合わされたほうがいいでしょう?」
「ああ…なるほど。確かに…」
「彼女の髪の色はどんな色なんですか?」
「髪は……」
男の瞳がふわりと和らいで――。
「銀色です」
「え……」
「少し蒼みがかった、綺麗な銀の髪をしているんです」
「……………」
銀の髪。
それは、アンジェリークにとって、とても特別な髪の色で。
もちろん、あの艶やかな黒髪もとても印象深い髪だけど。
「……素敵な髪の色ですね」
そう言って微笑んだアンジェリークに、男は嬉しそうに笑みを返す。
「ありがとうございます。あ…瞳は薄い灰青色…かな。貴女の瞳より
もっと薄くて淡いです」
アリオスの髪に淡い青色の瞳を思い浮かべてみる……が、どう
やってもアンジェリークの頭に浮ぶのは、金と緑の瞳。さらに、
あのちょっと皮肉めいた、でも優しく見つめてくれるアリオスの顔
まで浮んできて、アンジェリークの頬に朱が差す。
「えっと、そ、それじゃ、彼女のお好きな色は?」
「う〜ん…割と淡いブルー系の服をよくきてますけど…あ、でも、
いつも髪に赤いリボンを巻いているんです。それがよく似合って
いて…」
どうやら男も彼女を思い浮かべたらしく、心持ち照れて。
「小さめの赤い色の石を入れたらいいかな」
と、独り言のように言った。
「それじゃ、こんな感じでお願いします」
男が彼女の為に選んだ指輪は、銀の細かな細工が施されているもの。
小さめの赤い石をつけて。
指輪の後ろに彫る彼女の名前を紙に書いて、男がほっとしたような
顔でアンジェリークを振り返った。
「本当にありがとうございます。貴女のおかげでいい贈り物が出来
ます」
「いいえ、私の方こそ楽しかったです。きっと喜んで貰えますよ」
アンジェリークが言うと、男は本当に嬉しそうに笑って。
その笑顔が嬉しくて、アンジェリークもまた微笑む。
「それじゃ、私はもう行きますね」
「あ…あの…これ、お礼です」
そう言って男が差し出した紙袋。
中には赤い林檎が入っている。
「えっ、お礼なんて……」
「こんなもので申し訳ないですが、後々残るものだと、貴女の恋人に
悪いですからね」
と、男は悪戯っぽく笑む。
「えっ…そ、そんな…恋人って……」
「ふふっ。本当は、貴女のこと、時々お見かけしてたんですよ」
「えっ!?」
「よく銀の髪をした男の方と、仲良く歩かれていられるでしょう?
いつも本当に楽しそうだな…って思っていたんです」
「そ、そうなんですか?」
うっすら赤くなったアンジェリークに、男は目を細めて。
「だから、思わず声をかけてしまったんだと思います。
でも、本当に助かりました。心ばかりのものなのですが、
受け取って下さい」
そう言って男が笑うから。
「…それじゃ、遠慮なく頂きます」
覗き込むと、瑞々しい赤の林檎が入っていて。
アンジェリークは本当に嬉しくなって、
「ありがとうございます」
と微笑んだ。
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