「本命チョコ?」
アリオスが確かめるように言葉を繰り返す。
つまり、『本当に好きな人に贈るチョコレート』なのだろう。
そう思い当たった途端に、隣にいるアルフォンシア(少年形)と
バチバチっと目が合った。
合ってしまった。
普段は意識していない。
大切なアンジェリークの大切な存在と分かっている。
だから、コイツにチョコレートを渡すのは構わない。
だけど――――。
「アンジェリーク!!」
先に行動を起こしたのはアルフォンシアの方だった。
「なあに? アルフォンシア」
ふわっと優しい笑みを向けるアンジェリーク。
「僕の、僕のチョコには名前を書いてよ。『アルフォンシアへ』
って」
「え? あ…うん、いいけど」
厨房の中でアンジェリークが頷くのを見て、アルフォンシアは
勝ち誇った瞳でアリオスを見上げた。
「ふふっ…これで、僕のチョコの方がアリオスのよりチョコの量が
多いね」
「おまえねぇ、不器用なアンジェがそんなもの書いても判別不可能
だろうが」
「別にいいんだよ。キ・モ・チが篭っているから」
「…………」
「アリオスも書いてもらう?
ふふっ。どっちにしても僕の方が文字数が多いけどね」
勝利の笑みを浮かべるアルフォンシアに、アリオスの眉が思いっ切り
ひそめられる。
「おい、アンジェ」
売られたケンカは勝たねばならない。
「俺のにはレヴィアスの文字も入れろ」
「ええっ!? レヴィアスへって書くの?」
「違う。両方だ」
『レヴィアス』だけでは文字数が足りない。
「両方!? う…ん、まあ、いいけど」
頷くアンジェリークを確認して、アリオスはアルフォンシアに
『俺の勝ちだ』と視線を向ける。
「ずるいっ! ずるいよ、アリオス!!」
真っ赤になって頬を膨らませるアルフォンシア。
「なにがだ。レヴィアスだって俺の名には違いねぇだろ?」
かつて『レヴィアス』の名を持っていたことに(しかも文字数が
結構多い)幸運を感じるアリオス。
「それじゃ、僕だってルーティスを書いてもらう」
「ほー、そりゃ結構なコトだが、ルーティスの名をアンジェから
貰うチョコに書いて貰って、それってレイチェルに悪くねぇのか?」
「う〜う〜う〜〜〜」
アルフォンシアは悔しそうにアリオスを睨む。
と。ぱっと顔を輝かせた。
「アンジェリーク! 僕のには、木の実を入れてよ」
「え? ナッツ入りが好きなの?」
「そうっ。この宇宙で採れたナッツが入ったチョコが欲しいな〜」
「あっ。ふふっ、そうか、そうよね」
と、それは嬉しそうに微笑むアンジェリーク。
「うん。た〜っくさん、入れてね」
「ええ。沢山入れるね」
聖獣としては当然とも言えるお願いに聞えるが、アリオスは
知っていた。
今のアルフォンシアの目的は、チョコの嵩をあげることだ。
「…おまえ、汚ねぇぞ」
「ふーん、どうしてだよ。仮にも僕は聖獣だよ?」
「………ただの小ずるいガキにしか見えねぇ」
「アンジェ、俺のには酒、な」
「あ…うん、そうだね」
今度もアンジェリークはにっこりと微笑んだ。
珍しくアリオスが、プレゼントに対して色々リクエストしてくれる
のが嬉しいのだ。
が、
「チョコと同じ量くらい入れてくれよな」
「え? う−ん、固まるかなぁ」
不安そうなアンジェリーク。
アルフォンシアはぶーと膨れて、アリオスの袖を引っ張った。
「アリオス!
そんなの味見だけでアンジェリークが酔っちゃうじゃないか!」
「あ?
それはそれで、俺がじっくり介抱してやるから全然問題ねぇぜ」
「アリオスのは介抱とは言わない!
いつも以上に好き勝手するのが目的じゃないかっ」
「なんだよ、アルフォンシア。ヤキモチか?
仮にも聖獣のくせに心が狭いな」
「そういうアリオスは、全然大人げないけど?」
以上のアリオスとアルフォンシアの会話。
一応声を潜めているものの、厨房の中に丸聞こえである。
アンジェリークの手前、皆、聞こえないふりはしているが、顔を
伏せ肩を震わせている。(アンジェリーク一人が、貰ったリクエストに
どう応えようかと思案中だったが)
「ほ、補佐官…レイチェル。なんとか…して下さい」
「可笑しすぎて…手許が狂っちゃいますぅ」
一人、全く動じていないレイチェルは、ふうっと一つ溜息をついた。
「そだね。なんとかするわ」
と、頷いた。
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