――しまった!
油断した訳ではなかったが、ペルルーク城から出陣し、森から
出てきた敵兵にサンダーを放った直後、ドスンと上空から衝撃を
受けて、アーサーは馬から転がり落ちてしまった。
息苦しくて、体が重い。
――普通の魔法じゃない…闇の魔法だ!
察したと同時に、その先に自分に向けて引き絞られる弓兵の姿が
目に飛び込んだ。
――まずいっ!
その瞬間。
「アーサー、伏せろ!」
地面に伏せたアーサーの髪をかすめて、凄まじい風が吹き過ぎた。
吹き飛ばされる者。なんとか踏みとどまるも体勢を崩す者。
陣形を乱された敵陣に、セリスを先頭に解放軍の騎馬隊が突っ込んで
行った。
「アーサー、大丈夫か?」
駆け寄って来たセティに、彼の質問には答えず、アーサーは森の向こう
を指さした。
今、あのフェンリルに襲われると大変なことになる。
「セティ! フェンリルを使うダークマージがいる!」
セティは森の彼方を目を細めて見つめると、すっと杖を取り出し呪文を
唱え、一振りした。
パシッ!!
空気が震える。
――サイレスだ…。
暫くは魔法が唱えられないだろう、と安堵すると、張り詰めていた気が解け、
アーサーは座り込んでしまった。
「アーサー、立てないか?」
座り込んだままのアーサーを、セティが心配そうに覗き込んできた。
「………」
大丈夫だ、と言おうとしたが声さえ出ない。
闇の魔法は人の生気を奪う。
冷たい汗が背中に流れて息が苦しい。動悸が耳に響く。
なにより頭がガンガンする。
「回復の杖は持って来ていないのだが…」
セティが困ったように眉をしかめた。
クロノス兵の陣容の厳しさを見てとり、回復系は後ろのプリー
スト達に任せて、サイレスやスリープの杖を持つように、
と、セティはセリスに指示されていたのだ。
「それでも、まだマシかな」
そう呟いて、セティは手をかざしてライブを唱えた。
途端にあの割れるような頭痛が消える。
咽で止った空気が肺へと取り込まれる。
「少しはよくなったか?」
覗き込んだセティの瞳の翠。
突然、アーサーは思い出した。
ずっと、ずっと以前に見たこの翠を。
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