Saint Valentine's Day

3



 新宇宙の聖地には四季がある。
 二月の半ばのこの日は、まだまだ冬の季節。

「え〜〜っと、それじゃ、アリオス、これ…受け取って下さい」
 夕食後のくつろいだ時間。
 アリオスの膝の上で、アリオスの腕に囲まれた状態で、それでも
照れた、はにかんだ笑顔を溢しながら、アンジェリークが包みをア
リオスに渡す。
「クッ…サンキュ、アンジェ」
 いつまで経っても、きっといつまでも、初々しいアンジェリーク
が可愛くて、礼のついでにアリオスはその頬にキスする。
「くすぐったいよ、アリオス」
 首筋にアリオスの柔らかな髪がかかって、身をくねらせるアンジェ
リークに、
 ――俺としちゃ、こっちをさっさと頂きてぇけど…。
 と思うのだが。
 まぁ、手順として包みを開ける。
 中には小さなハートが四つ葉のクローバーのように並んでいた。
「アリオス、あんまりチョコは好きじゃないしね」
 だから、形だけ…と微笑むアンジェリーク。
「別に俺は構わねぇけどな」
 そう言いつつ、その小さな一かけらを摘む。
「ふーん…悪くねぇな。美味いぜ?」
「ホント!?」
「ああ」
「えへへ〜〜嬉しいっ!」
 と、満開の笑み。
「あのね、今回は中身で勝負! って考えたの」
 あんまりチョコは好きじゃないアリオスだけど、本当に美味しい
ものはちゃんと食べてくれる。
 だったら下手にお酒を混ぜたりしないで、甘さを押さえた質のい
いチョコレートを、チョコにとって最高にいい状態で固める…とい
う作戦を練ったのだ。
 この『チョコにとっての最高にいい状態』というのが案外難しく
て、随分失敗もしたのだけど。
「単に溶かして固めるだけ…なんだけど、本当に美味しい状態にし
ようと思うとなかなか大変なんだなぁ〜…って分かったかな?」
「へ〜〜〜」
 この小さなチョコレート四片だけど、いや、小さなだけに随分ア
ンジェリークの心がこもっているのだと。
「随分手間をかけたんだな」
「あっ、そ、そういうんじゃないのよ。楽しかったし面白かったし
嬉しかったし…」
 作る苦労なんて語っちゃったら負担に思うかと、慌てて手を振る
アンジェリークに、アリオスはクッと咽を鳴らす。
「ほら、せっかくなんだ。一緒に味わおうぜ?」
 小さなハートのかけらを口にくわえて、アンジェリークの頬に手
を置いたアリオスに、その意図に気付いて頬を染めつつ、
「あの…アリオス……」
「ん?」

「…アリオス、大好きよ」
 と囁いて、アンジェリークが瞳を閉じた――。  


<Fin>




「あげる人もいないんで、どうぞ〜」とリボン付きのプレゼントを頂きました。 ………で、ネタも頂いた次第です(爆)

書いてて思ったこと。「初々しい〜〜〜」
誰がって、アリオスがっ!!(笑)
時期的にはアンジェが好きなんだけど、まだ自分じゃ認めてないって頃かな?
(天空設定で『アリオスが好きな気持ちを認めた後のバレンタイン』なんて怖くて書けないよう〜)
アンジェの方は……クスッ。

久路 知紅




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