怒濤のような数日も、戻ってみれば、こっちでは半日程の時間経
過だった。
「疲れただろうし、今日はもう帰って休んだ方がいいよ」
と言ってくれたレイチェルに甘えて、家に戻った。
軽いメニューの夕飯を済ますと、後片づけの間に(『一緒に入ろ
う』攻撃をかわして)アリオスにシャワーを浴びてもらって、交代
でアンジェリークも浴びた。
「ふう…」
熱いシャワーは真実心地よい。
――やっぱり、おうちは落ち着くな…。
ドライヤーで乾かしはしたが、まだ少し湿り気の残る髪をタオル
で包みながら浴室を出る。
と。
はたと、ベットの端に片足を投げ出して座っているアリオスと目
が合った。
シャワーの後、ドライヤーなんか使わず、タオルで擦り上げるだ
けの銀の髪。僅かに湿って、だから、アリオスの綺麗な首筋にいつ
もより長くうちかかる。
湯を使った後の火照りを冷ましているのか、上半身は裸で、だか
ら彼を形作る筋肉が照明の元で露になる。
広い肩。発達した胸板。明りょうな線をつくる首筋や鎖骨。
筋肉の影を刻む二の腕。
大きな手と長い優美な指。
手にしたガラスとその中の琥珀色。
そうしてこちらを見つめる金と緑の瞳。
あまりに綺麗で、思わず見ほれて息を飲んだ。
「どうした、そんなところに突っ立って」
「あ…う、ううん」
笑いかけるアリオスに、アンジェリークは我知らず頬を染めて、
照れ隠しに俯く。
そこで。
「な、アンジェ。覚えてるか?」
「え、何を?」
「俺、戻ったら『お仕置き』するって言ったよな?」
タオルを握りしめてアンジェリークは硬直した。
アリオスが思い出したのは、アンジェリークがシャワーを浴びて
いる間だった。
濡れた髪をタオルで擦りあげながら、やっとひと心地ついて、ナ
イトキャップに手を伸ばし、琥珀色した液体をくいっと咽に流し込
む。
カランと氷が揺れる音。
向こうの浴室から聞こえるシャワーの音。
さて、今夜はどうしようかな…と考えて、そこでふとアリオスが
思い出したのだ。
――そういや、戻ったら『お仕置き』するって言ったよなぁ。
別に本気で言ったわけではなく。
今だって本気なわけじゃない。
いうなれば、夜を楽しく過ごす媚薬。
いつもとちょっと違った風に、いつもと同じに楽しむための、男
が女にしかける罠のつもりだった。
硬直したアンジェリークが、
「う…ん。言った。覚えてる」
それでもこっくり頷く。
「そうか。なら、覚悟がついたらこっちへ来い」
少しの間、固まっていたが、うん、と頷き、タオルをぎゅっと抱
き締めたアンジェリークが、アリオスの元に歩いてきた。
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