アルカディア。
昼下がりの約束の地――。
「ふうん…何処にでもあるんだな」
アリオスはオカリナに手を伸ばした。
手の中にすっぽり収まる、その小さな土で出来た素朴な楽器。
「…まえに、お前にもらったオカリナ、な」
アリオスが首を回してアンジェリークへと向き直る。
「え、なあに、アリオス?」
「………ずっと持ってた」
風が、銀の髪を揺らして、彼の金の右目を露にした。
「そうだったんだ…」
「……ああ」
小さな沈黙。
互いにそれ以上は語らず、ただ見つめあう――。
「久しぶりに吹いてやるぜ。なにがいい?」
「ほんと!? いいの? 嬉しいっ!!」
「ああ。……口寂しいしな」
「え? アリオス、何か言った?」
「いや、なんでもねぇ。で、なにがいいんだ?」
「えっと…あの曲、いい?」
小首を傾げるアンジェリーク。
予想はしていたが、アリオスはクッと目を細める。
「お前、本当にあの曲が好きだな」
「ええ。大好き! 優しくって、温かで…。でも、ほんのちょっと
切ない感じがするところも」
「…………前もそんなこと言ってたな」
アリオスはクツクツと咽の奥で笑っていたが、すっと表情があら
たまる。
「あの曲、な」
「?」
「……エリスから教わった曲なんだ」
「あ……そうだったんだ…」
アンジェリークの青緑の瞳が大きく見開かれ。
そうして、優しい笑顔が溢れる。
「聴かせてくれる? アリオス」
「ああ、いいぜ。アンジェ」
アリオスが頷くと、アンジェリークはもう一度笑って、小首を
傾げて、そっと目を閉じた。
――おいおい、お前なぁ…。
それは、以前からオカリナを聴くときのアンジェリークの体勢な
のだけど、
――誘ってる、って取られても仕方ねぇんだぞ?
心の内で苦笑して。
そうしてアリオスはおもむろにオカリナに口を寄せた。
穏やかな陽光(ひかり)が降り注ぐ約束の地に。
そよぐ風に乗って、せせらぎに合わせて、
オカリナの優しい音色が響いた――――。
<Fin>
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