3つのオカリナ

5



 アルカディア。
 昼下がりの約束の地――。
 
「ふうん…何処にでもあるんだな」
 アリオスはオカリナに手を伸ばした。
 手の中にすっぽり収まる、その小さな土で出来た素朴な楽器。

「…まえに、お前にもらったオカリナ、な」
 アリオスが首を回してアンジェリークへと向き直る。
「え、なあに、アリオス?」
「………ずっと持ってた」
 風が、銀の髪を揺らして、彼の金の右目を露にした。
「そうだったんだ…」
「……ああ」
 小さな沈黙。
 互いにそれ以上は語らず、ただ見つめあう――。
  
「久しぶりに吹いてやるぜ。なにがいい?」
「ほんと!? いいの? 嬉しいっ!!」
「ああ。……口寂しいしな」
「え? アリオス、何か言った?」
「いや、なんでもねぇ。で、なにがいいんだ?」
「えっと…あの曲、いい?」
 小首を傾げるアンジェリーク。
 予想はしていたが、アリオスはクッと目を細める。
「お前、本当にあの曲が好きだな」
「ええ。大好き! 優しくって、温かで…。でも、ほんのちょっと
切ない感じがするところも」
「…………前もそんなこと言ってたな」
 アリオスはクツクツと咽の奥で笑っていたが、すっと表情があら
たまる。
「あの曲、な」
「?」
「……エリスから教わった曲なんだ」
「あ……そうだったんだ…」
 アンジェリークの青緑の瞳が大きく見開かれ。
 そうして、優しい笑顔が溢れる。
「聴かせてくれる? アリオス」
「ああ、いいぜ。アンジェ」
 アリオスが頷くと、アンジェリークはもう一度笑って、小首を
傾げて、そっと目を閉じた。
 ――おいおい、お前なぁ…。
 それは、以前からオカリナを聴くときのアンジェリークの体勢な
のだけど、
 ――誘ってる、って取られても仕方ねぇんだぞ?
 心の内で苦笑して。
 そうしてアリオスはおもむろにオカリナに口を寄せた。
 
 穏やかな陽光(ひかり)が降り注ぐ約束の地に。
 そよぐ風に乗って、せせらぎに合わせて、
 オカリナの優しい音色が響いた――――。
 

 <Fin>






「あなたはアリオスに幾つ、オカリナをあげましたか?」(笑)
私は3つです。小箱もアリオスにあげたので、ファーストプレイでは、
稼いだハートは全部アリオス行きでした。(ラブフラッシュもしません
でしたし(笑))
このお話の原形は、天空直後に書いたままで、HDの奥底に眠っていた
モノです。当時は描き切れなかったお話ですが、こうやって<Fin>が
打てて嬉しいです。

久路 知紅



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