今日もアルカディアは穏やかな陽気だった。
約束の地は爽やかな風が吹き渡り、大樹の影が葉擦れと共に揺れ
ていた。
眩しい日差しをよけるように、大樹にもたれていたアリオスは、
草原の向こうからやってくる人影を認めて、身体を起こした。
「アリオスーー!」
相変わらずの仔犬モードで、嬉しげにシッポを…もとい、手をぶ
んぶんふって、小走りでやって来るアンジェリークに、アリオスは
我知らず深い笑みを浮かべた。もっとも、当のアンジェリークが、
息を切らせながら彼の前に立った時には、いつもの皮肉げな表情に
戻っていたのだが。
「よお…」
いつも通りの挨拶。ただし
「…待ってたぜ」
と付け加えるところが、以前とは違っているのかもしれない。
「こんにちは、アリオス。待った?」
ちょこんとアリオスの隣に座ると、アンジェリークはアリオスの
顔を窺う。
「いや…別に……」
そう言って、アリオスは空を見上げる。
太陽がいつもより僅かに角度を違えているのを見て取る。
「…いつもよりちょっと遅いか?」
「あ…うん、ちょっと、ね」
「クッ…ぼけーとして、コケたか、ドブに足でも突っ込んでたの
か?」
「なっ…も、もうっ!」
いつものからかい。そうして、ご丁寧にいつもの反応。
「…そうじゃなくって、ちょっとチャーリーさんのお店に寄ってた
の」
「? チャーリーの店に?」
「うん。…チャーリーさんのところで、ちょっと珍しいものを見つ
けちゃって…」
そう言って、アンジェリークが差しだしたもの。
アンジェリークの手の上に乗ったもの。
穏やかな曲線を描いた素焼きの器。
オカリナだった――。
|