「ん…」
深いところから浮き上がるような感覚。
目覚めて目に映ったのは、輝く銀の色だった。
――あ…。
そうして金と緑の瞳。
「起きたか?」
鼻先が触れ合うくらいの近さで、アリオスが微笑んだ。
「えっと…」
目だけで周囲を見渡すと、部屋はもう薄暗くなっていて。
窓の向こうは茜の空だ。 アリオスの顔をもっとよく見るために、距離を作る――背中に
回された腕に阻まれ何程も稼げなかったけど。
「…アリオスは起きてたの?」
なんとなく気恥ずかしいから、そんなことを聞いてみる。
「いや…俺も寝た」
「そ、そうなの?」
ちょっと意外な気がして首を傾げた。
「ああ…」
それは本当だった。
快感に全身を震わせ気を失ったアンジェリークを抱いて、アリオス
はその寝顔を見ていた。
――いい顔してんな…。
恍惚に悶えた顔とは全然違って、今は安心しきって寝入るアンジェ
リークにアリオスは笑みを浮かべて見入っていた。
――いい気分だ…。
久しぶりのセックスに、本能が満たされた心地よさ。
規則正しいアンジェリークの寝息が、アリオスの眠気を誘う。
――本当に…いい気分だ…。
アリオスは目を閉じ、アンジェリークの柔らかな躰を腕に、意識
を溶かしたのだった。
「いい気分だったしな」
「えっと…」
なんとなく露骨な言葉にアンジェリークの頬がすうっと染まる。
クッと一つ笑うと頬にキスをして、そうしてそっとその紅い唇に
触れようとして――――――
くう…。
「………………………………………」
「…………………………………………………………………」
「…クク…」
「やっ…!!」
アンジェリークが真っ赤になって、顔を隠すためにアリオスの胸
に顔を埋める。だけど、余計にアリオスの胸が震えている。
「いやいや、いいぜ」
まだくつくつ笑いながらも、アリオスは髪を撫でてくれた。
「おまえらしくっていい感じだ」
「う…褒めてない」
「いーや、褒めてる」
――褒めてるっていうより、嬉しいぜ。
空腹の訴えはアンジェリークが健康な証拠。
それがなにより嬉しい。
「ほら、シャワー浴びてこい。何か食うもの作ってきてやる」
「え? アリオスが作ってくれるの?」
「ああ。おまえは汗を流してこいよ」 ぽんぽんとアンジェリークの頭を叩いて、そうしてアリオスは
半身を起こした。
「アリオスは?」
「食ってから浴びるさ」
床に散らばったシャツに手を伸ばして
「次はその後だな」
と、何気なく言った。
「え?」
「『え?』?」 アンジェリークの声にアリオスは振り向く。その金と緑の瞳が
不機嫌に微かに細くなる。
「え? って、そりゃ俺にもおまえにも失礼だろ?」
「そ、そうなの?」
「ああ、そうだ」
きっぱりはっきり断言されて、アンジェリークは、そうなのかな?
と思ってしまう。
まぁ、確かに。すでに空は茜色。
――今から出仕するのもちょっと変かな…?
アリオスのことだから、レイチェルにも取りなしてるだろう。
――だったら、今夜はアリオスと一緒にいたいな…。
と、思い直したところで、
「ま、3日はおまえの居場所はベットの上だな?」
と、またもやアリオスがあっさりととんでもないことを言うもの
だから。
「ええ!?」
「あ? なんだ、ベット以外がいいのか? おまえ大胆になったな、
嬉しいぜ」
「ち、ちがーう。そうじゃなくって!」
「で、メシのリクエストは?」
「トマトのスパゲッティとミルクのコーンスープ」
「OK。春キャベツのサラダもつけてやるぜ」
「えっ!? ホント?」
好物メニューの追加に笑顔を溢し、そうしてはっとしたアンジェ
リークに
「まぁ、端末は俺が見てやる。さっさとシャワー浴びてこい」
と、身支度を終えたアリオスが笑って行ってしまった。
「う〜〜ん、なんかごまかされた感じがするんだけど…」
そう言いつつも、取りあえずはシャワーを浴びなきゃと、アンジェ
リークも床に脚を降ろした。
アリオスは階下に降りて、ピッと端末にスイッチを入れる。
案の定、レイチェルからのメールが一件入っていた。
アリオスへ
どもっ、レイチェルだよ〜。
とりあえずは3日、余裕をもって5日お休みにしておいたからね。
来週からはアンジェにもあなたにも予定いれたいから、それまでにケリつけておいてね。
あ、それから玄関先に差し入れ置いておいたよ。レイチェル特製スタミナドリンク。それ飲んでまぁ頑張ってね。
あ、半分こじゃないよ。3本がアンジェに1本あなたに。
(それくらいがちょうどいいでしょ?)
そんじゃ、よい休暇を…
追伸:お休みの名目は解禁日にしておいたからね〜。 |
無機質な液晶の画面から飛び跳ねる勢いの文字が踊っている。
「…クッ……ったく」
らしい文面に肩を震わせ
「ま、好意はありがたく頂くか」
と、差し入れを受け取るためにリビングを横切りドアを開けた。
空は藍を濃くした色になっていて。
気の早い星がまたたきを始めている。
――今夜は星が綺麗だろうな…。
そんなことを思いながら、庭の向こうの柵に、こちらに向けてひっ
かけられた小さな籠に向かって歩き始めた。
<Fin>
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