もはやアリオスの意志とは無関係に、彼の欲望が突き進む。
「っく…」
肉膜が擦れてまくれあがる感覚に眉をひそめて息を詰めた。アリ
オス自身、ろくに濡れてもない女に入り込むのは初めてで――――
彼は今まで同意のないセックスをする必要がなかったので。
――アンジェ。悪い…。
こんなふうにしたかった訳ではなかった。
欲しいと望んでいたけれど、こんなふうに奪うつもりではなかっ
たのに…。
それでも止まらない。止められない。
「う…ふぅ……くぅん……」
アンジェリークがか細く喘いだ。
それは間違いなく苦痛のため。
たわめた眉も肩に食い込む爪も感触もそれを物語っている。
だけど…。
その苦痛の表情はまるで初めて抱いた時を思い出させて。
否応なく興奮する。昂ぶらされる。
強引に抉り通し、恥骨が当たる感覚に、奥まで入りきったのを知る
が、それでも更に奥へと求めて腰を揺さぶると、もう一度アンジェ
リークが鳴いた。
自分で自分が制御できないと自覚はしていた。だが、アンジェリーク
に挿入ってしまえば、少しは気が収まると思っていた。
だけど、実際に挿入ってみると、柔らかく温かな感触が痛いほど
心地よい――ろくに濡れてもないのに。
結合を深めるための身じろぎでさえ、包まれる感覚に目がくらむ。
――俺は……アンジェに貪欲だ……。
アンジェリークに狂わされる。ずっとずっと。
欲しい。
余すところなく、全部。
アンジェリークの全てが欲しい。
膝裏を腕ですくいあげ、シーツへと押さえつける。
凶暴な灼熱塊をより深く躰の奥へと打ち込まれ、
「あん…んん…」
と、アンジェリークが喘いだ。
眉を寄せ、痛みをやりすごすために小さく口を開ける。
決して快感からでないことが分かっていても――何故、痛みをこ
らえる表情と快楽に陥ちた顔は似ているのだろう――悦ぶ躰と心が
ある。
――もっとだ…もっと、もっと…。
音を立てそうなほどのきつさと、擦れる感覚はアリオスにも痛み
をもたらすが、それさえ快感となっていく――確かにアンジェリーク
を犯している証に思えて。
アリオスは容赦なく、欲望のままに貪った。
「…ッ」
唐突に、激痛にも似た電撃が背骨を走る。
頭の奥がカッと熱い。
吹き上がるうねりにアリオスは逆らわなかった。
思いのまま、本能のままに激しく動く。
アリオスの額から落ちた汗がアンジェリークの頬を濡らす。
「う……ック…」
途方もない快楽に震えてアリオスは射精した。
男の性は単純だ。放出によって快感を得る。
ましてや、惚れた女の中に出すのだ。
自身が溶けてしまうかのような感覚――いっそ苦痛とも言える快感が
アリオスの全身を駆け抜けた。
アンジェリークに深く穿ったアリオスの分身は、どくどくと
脈打ち、熱い潮をまき散らせながら、それでもまだ足りないと
身勝手に蠢く。
激流となって駆け上がった大量の精液が溢れて、アンジェリーク
の太ももを伝った。
最後の一滴まで搾り出して――それはかなり長い射精であった
――大きく息をつき、そうして……アリオスは、目の前の光景に
がく然とした。
ろくに服も脱がせず――そのくせ胸だけ露にさせて――、首筋に
乳房につけた痕が赤く腫れて痛々しい。ファスナーを緩めもしない
でまくりあげたスカートの裾がアンジェリークの細い胴の辺りに束
になっている。自分に至っては前を開けただけ。
こんな交わりを強いておいて、それでも駆け抜けた快感は本物
だった。
――…俺は……なんてことを…。
こんなつもりではなかった。
アンジェリークが欲しかったし、もう待てなかった。
だから連れてきたのだけど、こんなに無残に散らすつもりではな
かった。
――…これじゃ…まるでレイプだ…。
その単語が胸によぎり、アリオスは戦慄いた。
「…アンジェ……わるかった…」
謝って済むとは思わなかったけど。
アンジェリークは閉じたまぶたを開け、青緑の瞳を見せてくれた。
そのことにほっと安堵する。
アンジェリークは、小さく首を傾げて
「なにを謝ってるの、アリオス?」
と、本当に不思議そうに言った。
「なにって…おまえ……」
問われたアリオスの方が驚いて、視線を巡らす。
見渡せば見渡すほど酷い有り様だ。
アリオスの言葉と表情に、アンジェリークは思い至ったのか目を
見開いた。
「やだ…アリオス。謝らないで」
伸ばされた手がアリオスの肩に置かれて引き寄せられる。
「……アンジェ?」
「驚いたけど…でも…恐くはなかった。ううん…私…嬉しかった。
…嬉しいと思ってしまった…」
「…え?」
アンジェリークは驚いた。
手首を捕まれ、押さえつけられ――そんなこと初めてだった。
だけど、アリオスの瞳を見て、もっともっと驚いた。
ひたと見つめる金と緑の瞳は、酷く切なげで、苦しげで、そうして
抑えようにも抑えきれない情欲を湛えていた。
「待てねぇんだ…アンジェ……」
低く呻くようにアリオスが言った。
呼吸さえ許さないかのような激しいキス。
音を立てて首筋に咽にぴりりっと走る痛み。
ホックも外さずブラジャーをずり上げられる。
――こんなの、初めてだ…。
アリオスと結ばれてから、数えきれないほど躰を重ねたけど、
こんなに性急で余裕のないアリオスは初めだ。
アリオスは恥ずかしいことは一杯するけど、嫌なことは一つも
しなかった。いつも自分に合わせてくれて、導いてくれて、そうして
それを楽しんでいた。
まるで縛るかのように跨がられて。
服も脱がされず胸を露にされる。
鷲掴みされる乳房が痛かった。
でも…。
とても驚いているけれど、怖いとは思わなかった。
いや、むしろ、嬉しい…と思ってしまった。
荒々しい手と乱れる銀の髪。
「もっとだ…」と呟かれた声は、低く擦れてる。
胸にかかる吐息が大きく熱かった。
――いっぱい…心配かけちゃったね…アリオス。
夢うつつで過ごした間、アリオスはいつも静かに微笑んでくれて
いた。
心配するな、と。
大丈夫だから、と。
優しく髪を撫でて言ってくれた。
その笑顔がどれだけ励みになったことか。
でも、その笑顔の奥にしまい込んでいたアリオスの想いが、今、
伝わってくる。
スカートをまくりあげられ、パンティをむしり取られる。太もも
に走った痛み。
実は卸したばかりのパンティを、アリオスはまるで邪魔だと言わん
ばかりにほうり投げた。
躰の中心にひそ、と当てられた灼熱の塊。
――――――――それは証だ。
受け入れたい、と。
応えたい、と思った。
体はうまく動かないけど、心はそう思った。
「…いっぱい、アリオスが心配してくれてたのが、本当に分かったの。
知ってたつもりだったけど…つもりじゃなくて、心から」
アリオスがこんなに取り乱したことなどなかった。いつもどこか
に余裕を持っていた。
「ごめんね…アリオス」
「謝るなよ」
「ううん…そうじゃないの。私…嬉しいと思ってしまったの」
泣き笑いの表情をアンジェリークが向けた。
「こんなにアリオスが心配してくれてたんだって思うと、申し訳
ないって思ったけど、それ以上に…嬉しかった。嬉しいと思って
しまった。…アリオスに心配かけて、それでも嬉しいと思ってしまった。
私は……アリオスには我儘だわ…」
「それなら…俺はおまえに貪欲だな」
汗に濡れた前髪をかきわけ、額に口付け、アリオスが言った。
「おまえの我儘は俺は嬉しい」
分かるだろ? と目配せする。
「アリオス…」
額に頬にまぶたにと辿って、そうして降りてくる唇に、アンジェ
リークはそっとまつげを降ろした。
触れるだけの、啄ばむようなキス。髪の生え際や耳元を撫でる
アリオスの手がとても優しくて心地よい。
うっとりとしていたのに、ふっとアリオスが躰を離す気配がして、
「え?」
と、目を見開いた。
――なんて顔、しやがるんだよ…。
離れちゃいやだ、と顔に態度に全身で言い表わしてる。
当たり前だが、キてしまう。
だけど、
「ちゃんとやりてぇんだよ」
と笑いかけた。
「おまえの躰も感じさせたい。…いいだろ?」
アリオスの問いに、アンジェリークはうっすら頬を染めて、
「…うん……」
と頷いた。
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