「アリオスー?」
執務も一段落し、お茶にアリオスを誘おうとしたのだが、その姿が見当たらずにアンジェリークは宮殿内をうろうろしていた。
しばらくあちこちを探した後、アンジェリークはふとある場所を思い出す。
少し前にその場所を教えた時、彼は気に入ったようなそぶりを見せていたから多分そこにいるのかもしれない。思い立つと同時にアンジェリークはそこに向かっていた。
「あ、やっぱりいた・・・。」
咲き乱れる花々の間を抜け、アンジェリークがその隙間から顔を覗き込ませると、木陰の下に仰向けに寝そべっているアリオスの姿がある。
そこは女王の私庭で、決まった時間に庭師が来る以外は人の気配がない。恐らくアリオスは格好の昼寝場所に定めてしまったのだろう。
「アリオス・・・、眠っちゃってるの?」
音を立てないようにそっと彼の元へと近づき声をかけたが、珍しくも深く寝入っているのかアリオスが起きる気配はない。
「・・・もう、しょうがないわね。」
そんな風に言いながらもアンジェリークの顔は笑っていた。
こうしてのんびりと午睡を貪る彼の姿が嬉しかったから。
彼の心の安息を、あの時からずっと願っていた彼女だから。
でも、声をかけても起きないなんて珍しいな、と思いつつアンジェリークはアリオスの隣に座り込み、空を見上げる。
抜けるような青空に白い雲がゆっくりと流れ行き、穏やかな風が木の葉を揺らして、サワサワと微かな音が耳に心地よく響く。
いつか、こんな日が来る事を祈っていた。
いつか、こんな風にすごせる時を願っていた。
それが今、ここにある。
風がサワリと銀の髪を撫でつけていく。アンジェリークはそっと手を伸ばし、その髪に触れた。
それでも起きないアリオスにまた微笑んで、アンジェリークは小さくあくびをする。
早く行かないとレイチェルに怒られちゃうかな。
そう思いながら、いつしかアンジェリークも夢の中に引き込まれていった。
フニ。
「!?」
奇妙な擬音と、頬を何かに摘まれてる感覚に、一気に覚醒したアンジェリークは目をパッチリと開く。
眼前にあるのはアリオスの顔。
それもかなりのアップ。
唐突な事に驚いて、思わず身を引こうとしたアンジェリークだったが、それはできなかった。
なにしろ、彼女の頬をアリオスがフニフニと摘みながら遊んでいるのだから。
「ア、アリオフュ〜、にゃにしてるの〜!?」
状況を把握してアンジェリークは少々怒り気味に文句を言ってみるが、如何せん迫力ない事この上ない。
アリオスはニヤニヤと笑いながら、まだ彼女の頬で遊び続けていた。
「なにって、こんなところでのんきに寝こけているお前が悪い。」
「にゃによ、も〜! はにゃして〜!!」
「しょーがねーな。」
真っ赤になってじたばたと暴れだしたアンジェリークに、ようやく手を離してやる。
「もう〜。」
引っ張られていた頬に手を当てながらアンジェリークは頬を膨らませ、それを見ながらアリオスはまだクツクツと笑っていた。
「ったく、こんなとこで寝るなんて、お前油断しすぎだ。」
「え、どうして? ここに誰か来る事なんてめったにないし、それにアリオスがいるから大丈夫でしょう?」
「ある意味俺の横で気ィ抜いてるのが一番危ないかもな。」
「? ? ?」
言葉の奥の意味を捉えられなくて首を傾げるアンジェリークにアリオスは苦笑しながら、まあ意味は夜にでも教えてやる事にするか、などと内心で考えていたりする。
彼の内心などやっぱり分からないアンジェリークは首を傾げながら辺りを見回し、ようやく現在の状況に気づいて叫んだ。
「・・・あ〜!もう日が傾きかけてる!お茶も執務もサボっちゃった!アリオスのせいよ〜!!」
「人のせいにするなよ。お前が寝こけたのが悪いんだろーが。」
呆れたように前髪をかきあげるアリオスをアンジェリークは恨めしそうに睨む。
「だって、声をかけてもアリオス起きてくれないんだもの。」
「・・・起きなかった?」
「そうよ。無理矢理起すのも嫌だったし、アリオスの事だからすぐ起きるだろうと思って待ってて・・・それでつい風が気持ちよくて私まで寝ちゃったんだもん。」
それから彼女はお茶請けのケーキを楽しみにしていたのに〜、などとぶつぶつ文句を言っている。
一方アリオスはといえば、やや唖然としていた。
転生する以前から、彼は人の気配には敏感すぎるほど敏感だった。それは自分の命に関わる事だったから。
人が近づいてくる気配だけで、すぐに目を覚ましまうことは彼の習性になっていたし、彼もそれがごく当たり前の事だと思っていた。以前も現在も。
それなのにアンジェリークが近づいてきて、その上声をかけられても起きなかったとは。
「・・・? アリオス? どうかしたの?」
「・・・いや・・・。」
軽く頭を振ったアリオスもふと辺りの景色を見回す。
人がこないから昼寝の場所に選んだわけだが、それは思った以上に心地のよいもので。
この庭は花好きのアンジェリークが自ら世話をしている。そのためかは分からないが場の空気が包み込まれるように優しくて穏やかだ。
言ってみればアンジェリーク自身が感じられる庭。
で、更にはアンジェリーク本人が隣にいてそのまま眠りこけていた、というわけで・・・。
「・・・そうは見えなくてもスゴイもんだな。」
「? なにが?」
「別に。」
もちろん素直に口に出してやる彼ではないのだけれど。
「・・・って、ちょっと、アリオス!?」
再びゴロンと横になったアリオスは、その頭を彼女の膝の上にのせた。
「別にいいだろ。どうせお茶も執務も今更だ。」
「も〜、そんな事言って!それに今から寝直しちゃうの?もう日も暮れちゃうわ。」
「・・・それもそうか。んじゃ部屋に戻るか。」
「ちょっと、ちょっと、アリオス〜!?」
ムクリと起き上がると、アンジェリークを軽々と抱え上げ歩き出す。
たまにはこんな昼寝もいいか。
そんなことを考えながらジタバタと暴れるアンジェリークを抱え、さっさと私室へと戻るアリオスだった。
【いちう様のコメント】
キリ番7777HIT代理ゲッターの久路様のリクで以前短編で書いた「Snow Rabbit」の二人のような感じで、とのことでしたが・・・。
私ってば初心を忘れてるような気がします(^^;)。うーん、こんなのでいーのかな?
あ、アリオスのお持ち帰りぐせは変わってませんが(笑)。
らぶらぶというよりほのぼのでしょうか。あれ、やっぱりリクに沿ってない?す、すみません、久路様!
【久路知紅のコメント】
と、とんでもございません〜〜。嗚呼、この「ほのぼの〜〜」はトロワ後のアリコレの醍醐味でございます。ええ、一部に「手癖の悪い邪(よこしま)ケモノ」が跋扈しようとも、それはそれで彩りの一つでございましょう(笑) 本当にありがとうございました。
いちう様のHP『Heavens』様はこちらです。
|