テスト!


大好きなあの人に伝えたい。

宇宙で一番愛してる―――。

 

 

宇宙で一番

 

 

「ねえ、アリオス?」
「あ?」

 

栗色の髪の愛しい少女に呼ばれて、アリオスは立ち止まった。
振り向くと、アンジェリークは道端の花の前にしゃがみこんでいる。

 

「これ!」
「……パンジーがどうかしたのか?」
「うん。この前ね、セイラン様がおっしゃってたんだけど、パンジーが三色なのは天使が三回キスしたからっていう伝説があるんですって。」
「……」

 

アリオスの表情が、わずかに不機嫌になったのにも気づかず、アンジェリークは話を続ける。

 

「アリオスは、どうしてだと思う?」
「……さあな。」

 

立ち上がって、ようやくアリオスが不機嫌なのに気がついたアンジェリークは、彼の顔を覗き込んだ。

 

「アリオス?……どうしたの?」
「……セイランと、二人きりでここに来たのか?」
「え……ううん。陛下やロザリア様や、レイチェルもいっしょだったけど。」
「……」

 

ふいっと顔を背けてしまうアリオスを、アンジェリークは不思議そうに見つめる。

 

「アリオス?」
「……なんでもねぇ。」
「もしかして……ヤキモチ?」
「バーカ。そんなんじゃねぇよ。」

 

そう言うと、アリオスはアンジェリークを抱き寄せて軽く口付けをした。

 

「もう!ごまかされないんだから。私、アリオスのことならなんでもわかるのよ!!」
「クッ。お前のその顔!」
「アリオス〜!」
「わかったわかった。じゃあ、お前がどれほど俺のことを知ってるか、テストしてやるよ。」
「え?」

 

アリオスの瞳が、光を反射して煌めいた。
自然、アンジェリークの顔も真剣になる。

 

「第一問。俺がよくいる場所は?」
「え、えっと……約束の地と酒場!」
「……まあ、間違っちゃいねえけどな。」

 

ちょっと複雑な表情を浮かべるアリオス。
酒場と言われたのが心外だったらしい。

 

「第二問。俺の趣味は?」
「……寝ること?それとも雲を見ること?これって趣味って言うのかしら。」
「何言ってんだ。立派な趣味だろ。」
「もう。」

 

今度はアンジェリークが困る番だ。
たしかに寝ることや雲を見ることを趣味と断定するのも微妙なところである。

 

「最後の問題だ。……俺の、一番好きなものは?」
「え……好きなもの?オカリナ?」
「違う。」
「じゃ、お酒。」
「それも違うな。」
「う〜ん…それじゃあ……」

 

眉間にしわを寄せながら、懸命に考えるアンジェリーク。
それを楽しそうに眺めながら、アリオスが言った。

 

「残念。時間切れだ。答えはまたいつかだな。」
「え〜っ!」

 

しばらく不満そうな顔をした後、アンジェリークはとっておきのいたずらを思いついたような笑顔でこう言った。

 

「アリオスばっかり問題出して、ずるいわ。私の問題にも答えて!」
「…なんだよ。」

 

言ってみろと先を促すアリオスに、アンジェリークは咳払いをひとつ。
胸をはって問いかけた。

 

「私が宇宙で一番好きなもの、な〜んだ?」
「あ?そんなの、決まってんじゃねーか。」
「なになに?なんだと思う?」
「食い物。」

 

興味津々の表情で聞いてくるアンジェに、アリオスはきっぱり言い放った。
アンジェリークの顔が怒りに赤くなる。

 

「アリオス〜!!!」
「ハッ!冗談だって。怒るなよ。」
「知らない!」

 

背を向けて、すたすたと歩いていってしまうアンジェリーク。
苦笑しながらも、アリオスはあとを追う。

 

「わかってるって。お前の一番好きなものは宇宙だろ?なんてったって、女王だもんな。」
「………違うもん。」

 

アリオスの言葉に、アンジェリークは足を止めた。
その意外な答えに、アリオスも立ち止まる。

 

「へえ?じゃ、なんなんだ?」
「……教えてあげない。」

 

どうやら先程のことがまだ尾を引いているようである。
アリオスはゆっくり彼女に近づくと、後ろからそっと抱きしめた。

 

「言えよ。」
「……ずるい。」

 

耳元でそんなに優しくささやかれたら、抗えない。
それでもまだ渋っていると、アリオスはアンジェリークを横抱きに抱え上げた。
今度は別の意味でアンジェリークが赤くなる。

 

「ア、アリオス!?」
「言わないならこのままだが……どうする?」

 

ニヤリと笑ったアリオスに、ついにアンジェリークは敗北を宣言した。

 

「あのね……」

 

そして、アリオスの耳元でそっとささやかれた言葉。

 

『宇宙で一番貴方が好きです』


【久路知紅のコメント】
 『テスト』というリクエストに扇 琳紅様から頂いたものです。
 「こう来たか〜〜」と、驚きながらもニヤにやついてしまいました。
 お互いの答えとその反応が、妙に可笑しいです。
 サイトを閉鎖されるとのことで、ご無理なお願いをしていたのかな?
 でも、こんな素敵なお話をありがとうございます。
 また、いつか、どこかでお会いできれば嬉しいです。

 

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